「地獄くん」
ひさびさのマンガネタである。
またしても大田出版のQJマンガ選書シリーズだ。
どうもこのシリーズには惹かれるものがあるな。
さて、今回はムロタニ・ツネ象の「地獄くん」だ。
なんとも形容のしようのないタイトルだが、どうしても読みたくなる類のタイトルだな。
本書は’67年から複数の少年マンガ誌に掲載されたものを集めたものである。
60年代後半というと、水木しげるに代表される妖怪マンガが流行っていた時期になるので、本作もその流れの中で作られたものであろう。
ムロタニ・ツネ象って、なんか聞いたことのある名前だな、と思っていたら、60年代には少年マンガで活躍した人らしい。
「ピッカリビー」の作者といえば、あぁ、なんとなく知っている、という人もわたしと同世代の人には多いかと思う。
70年代以降は学習マンガの分野で作品を残しているようで、現在でも現役だそうだ。
「地獄くん」とは、表紙写真を転載してるが、この奇妙な人相の少年のことである。
作中でははっきりとは語られていないが、どうやら閻魔大王の孫らしい。
全部で6編のエピソードが語られるが、どれも悪いオトナによってひどい目に遭わされている少年少女を、どこからともなく出現した地獄くんが救うという話である。
救い方も半端じゃなく、殺された母親を生き返えらせたり、大ケガを3秒で治したり、火災現場に飛び込んで逃げ遅れた少年を耐火性のプラスティック容器に詰めて救い出したり、それはもう大活躍なのだ。
しかし、それにも増してすごいのが、悪いオトナの懲らしめ方である。
その徹底ぶりはただごとではない。
手をちぎりとってしまうなんてのは序の口で、ちぎった手を頭にくっつけてしまったり、違法ドライバーをタイヤに変えてしまったり、大地獄鳥に乗っけて地獄に送るわ、一万円札に閉じ込めてドブに流すわ、ムチで絞め殺すわ、もう、残虐の限りを尽くすのである。
少年マンガの勧善懲悪のレベルを遥かに超えている。
このような残酷な処分を下した後、「こんなオトナになってはだめだよ」みたいな作者のコメントをもって作品は締め括られているのであるが、それにしてもなぁ、ちょっとやり過ぎではないか、と。
本書の巻末の解説にも書かれているが、どうも作者はそういう道徳的な寓話を語りたいのではなく、こういう残酷な絵を描きたかっただけなのではないかと思える。
道徳を訴えるには、懲戒の手段が過剰である。
というか、作者は勧善懲悪の道徳話を描こうと意図していなかったのだろう。第五話「地獄の声」という話では、自動車事故で死亡した三太郎少年が閻魔大王に懇願して蘇生するのだが、ひとつ条件があり、蘇生してから24時間はひとことも口をきいてはならない、もし一言でも言葉を発したらそのまま再び死んでしまう、というなんともいえない条件を課せられてしまう。
三太郎君は、両親、友人からの問いかけにも応えず、ひたすら沈黙を続けるのだが、あと2時間ほどで24時間を経過して完全に生き返ることができるというのに、自分をひき殺した二人組みによるひき逃げ事故現場を再度目撃したばっかりに、濡れ衣を着せられようとしたトラック運転手をかばい、真犯人を告発するために声を挙げてしまう。
勧善懲悪話ならば、ここで約束を守って自分の命を優先することより正義を貫いた少年を閻魔大王は褒め称え、蘇生を許すところであるが、作者は三太郎君は無情にも再び冥界に帰してしまう。少年マンガにあるまじき、なんともやりきれない話である。
ちなみにこの話には地獄くんは登場しない。少年マンガで、主人公が登場しないってどうよ。あたかも「トイレット博士」のようである(違うな)。
第六話「死神工場の巻」の途中で本編は終わっている。死神工場(って何だ?)で強制労働を課せられている少年少女を救うべく単身乗り込んだ地獄くんが、悪人工場長に地下室に閉じ込められ溶けた鉛を流し込まれるという危機一髪の状況で不意に終わってしまう。
あぁ~、続きを読みたい!
どうやら、掲載誌が廃刊になったらしい。残念なことである。
併録された「スリラー小僧 恐怖のハエ男」という作品も、「えぇ~、そこまで引っ張って、そういう終わり方?」というくらい唐突に終わっている。
これは廃刊とは関係なく、恐らく作者の意図で終わっているようだが、なんとも無体なことである。
そういうストーリー展開のシュールさだけではない。
各話に挿入された見開き2ページを費やした大ゴマの絵は、まさしくシュールレアリズム絵画あるいは象徴派絵画である。
ダリかエルンストか、はたまたルドンか。
この画風は杉浦茂、徳南誠一郎などの正式に絵画教育を受けた作家の画風に通じるものがある。
例えば、一番下の「地獄時計」の絵は、溶けた時計と這い回る蟻の群れが描かれているが、これなんかそのまんまダリのモチーフだ。
こういう「彼岸の光景」を描く題材として「地獄くん」はぴったりだ。
作者もこういう絵を描きたいがためにこの作品を描いたのではないかと思わせる。
ストーリーはともかく、絵を味わうだけでも十分価値のある作品だ。
これだから、カルトマンガ漁りはやめられない。
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