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2011年10月23日 (日)

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

フィリップ・K・ディック作の1968年発表の古典SFであり、サイバーパンク映画として根強い人気を誇る「ブレードランナー」の原作である。
「ブレードランナー」は、ずいぶん昔にテレビでみたことがあるくらいで、いや、レンタルビデオだったかもしれないが、妙に薄暗い画面と奇天烈なアジア風の街の風物が強く印象に残ったが、それほど思い入れのある映画ではない。
なぜ、改めて原作を読んでみようと思ったかというと、これが原因である。

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「ハルシオン・ランチ」

「無限の住人」で知られるマンガ家、沙村広明の作品なのだが、これがまた秀逸。
この作家の画力は相当なもので、それだけでも「買い」だが、2巻で完結というコンパクトさもちょうどよく、なんといっても設定だけで引き込まれる。
大雑把にいうとSFコメディなのだが、いたるところにシニカルでダークなお笑いが散りばめられている。
「むげにん」は徒に延長戦を戦い続けている感じだが、その合間を縫って、ときどき短編集や連作(しかもどれもおもしろい)を発表しているこの作家の力量を思い知らされる。
ストーリーについては、本稿から離れるので割愛。

で、本作中に「官能洞穴(タンホイザーゲート)」という言葉が出てくる。
気になるなぁ。
「タンホイザー」とは、ワーグナーのオペラのタイトルであり、その登場人物である中世ヨーロッパの騎士の名前だそうだ(実はストーリーとかあまり知らない)。
実はこの「序曲」というのがまた名曲で、雄大で勇壮な曲想はワーグナーの傑作だと思う。
だいたい、ワーグナーの管弦楽曲って、大仰で重厚で、ある意味わかりやすく、悪く言うと通俗的であまり通受けしない印象なのだが、大好きだ。
こういうのを聴くと、オーケストラの指揮者ってやってみたくなるねぇ。

まぁ、それはさて措き、「タンホイザーゲート」って何だ?
調べてみると「ブレードランナー」で使用されて広まった言葉らしい。
あぁ、そういえば、原作の小説のタイトルって、ちょっと変わった名前だったよなと思い、読んでみようと思った次第。

本屋で探してみると、あるある。
小松左京とはえらい違いだ。
しかもカバーがなんともかっこいい。
文庫本のカバーとしては衝撃的といっても過言ではないかも。
というわけで、即買い。

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内容は、第三次世界大戦後、放射性物質が降り注ぐ殺伐として荒涼としたアメリカ、サンフランシスコが舞台。
人々は、ムードオルガンなる装置により感情をコントロールされているという奇妙な世界で、人造人間アンドロイド(映画「ブレードランナー」では「レプリカント」と呼ばれているが)が危険な労働などに使役されているという。
裕福な階層の人々は地球外の天体(火星とか)に移住し、地球に残された下層階級の人々は放射能汚染に怯えつつ、電気仕掛けの動物をペットとして飼育している。
生身の動物は貴重で、大金をはたいてそれらを購入し、飼育することが地球の人々の憧れ、ステイタスになっている。
主人公、リック・デッカードは、逃亡したアンドロイドを処分することで生計を立てている専門の警察官「バウンティ・ハンター」であるが、電気羊を飼っていて、そのことが劣等感になっている。
いつもシドニー社の動物の価格表を携帯し、生身の動物の価格を憂いているらしい。
駝鳥が3万ドル、子馬が5千ドル・・・あぁ、オレの手には届かない、なんてな感じで。
映画みたいにかっこいい雰囲気はまったくなく、なんだかさえないサラリーマン風なのだ。
ちなみに彼がアンドロイド一体処分して得られる給料は1千ドルである。
そんな彼が、火星から逃亡してきたアンドロイドのグループを処分する戦いを描いたものである。
確か、映画「ブレードランナー」では、女性アンドロイドと恋仲に陥ってしまうような描写があったような気がするが、本作ではむしろそれはアンドロイドのハニートラップだったりする。
しかし、その過程のすったもんだで、人間とアンドロイド、生き物と電気動物の区別、意味合い、どちらが自分の帰属すべき仲間なのか、アイデンティティーが混乱してゆくという、なかなか深いストーリーである。
この奇妙なタイトルの意味はこのあたりにある。

読後にどんよりとした気分になった。
バーチャルリアリティが普通に身の回りに存在する現代って、この作品の世界とさほど距離はないと感じる。
そんな世界で、人間が人間らしく生きることはどういうことか、なんてな愚問に対する回答が示されているわけでは、もちろんない。
しかし、この長大な寓話が現代人に示唆することは重く深い。

なお、本作中には「タンホイザーゲート」なる言葉は出てこなかったようだ。
う~む、原書をあたらねばならぬのか?

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コメント

本題にふれず、すいませんが(笑)
「ハルシオンランチ」はオレがいたるところで、薦めているマンガです。・・・しかし、分かってくれる人がいなくて嘆いてもおります。1ページにあれだけ、情報を入れているなんて、相当なものですよね。で、上から目線の物言いですいませんが、あれらの膨大なギャグやパロディをすべて理解しながら楽しむことを、考えると読者層を相当限定するかもなあ、とは思います。当家の子供二人は「意味わかんない~」と言って挫折してました(笑)余談ですが、職場の同僚の巨乳(笑)のおねえさんが、作者と一緒に昔同人誌やってたそうで、年賀状見せてもらいました。

投稿: はかせ | 2011年10月23日 (日) 09時13分

>はかせ

確かに情報量はすごいですよね。
ふきだし外の書き文字がなかなか味わい深いし。
しかしながら、最近老眼入ってきたのか、小さい字が読めなくって、ちょっときつかったです(^^;

>ギャグやパロディをすべて理解しながら楽しむこと

あぁ~、そうか。
それがわからないと意味不明なセリフと状況のオンパレードになってしまうのか。
それは気がつかなんだ。

「タンホイザーゲート」がえらく気になったのは、そういうパロディのひとつだろうと推測できたけど、元ネタがわからんということが原因だったのか、と納得。

投稿: 皇帝 | 2011年10月23日 (日) 10時40分

タンホイザー・ゲートといえば「トップをねらえ!」でしょう,というアニオタのような意見はともかくw

タンホイザー・ゲートって原作には登場してこない言葉のようですね。英語版のwikiでも映画で初出と書いてありました。
http://en.wikipedia.org/wiki/Tannhauser_Gate

映画でこの言葉が登場してくるシーンは,個人的にはとても好きなところですねぇ。

投稿: MIB | 2011年10月23日 (日) 10時57分

>MIBさん

おぉ~、お久しぶりです。
案外アニメ詳しいんですね(^^;
「トップをねらえ!」ってのは、全然知らんのですが、なんか相当マニアックな作りの作品みたいですなぁ。
岡田斗司夫ですか~。

wikiによると、

互いに回転する複数のブラックホールに(エネルギー運動量が保存されない)高次元時空の泡が存在することが示されのちにタンホイザー・ゲートの名で知られる事になる

・・・いやぁ、わからん説明ですね。
タンホイザーさんが発見?したのね。観測したのか?

ところで、やっぱり映画ですか。
実はDVDを入手して、まだ見てないんですが、また確認してみます。


投稿: 皇帝 | 2011年10月23日 (日) 16時01分

へ~、MIBさんって、アニメ通なんですね(爆)

ボクは、アニメってサザエさんぐらいしか
見たことないからわからないけど
何か、オススメあったら教えてね~(いひひ)

>意味不明なセリフと状況のオンパレード

オレの子供なのに、なぜこの面白さがわからん!
と、オヤジは憤ったわけですが、子供の守備範囲を
超えているうえ、オタクとは関係の無いネタも多いし、
正直、オレもこれは何だっけ?と思うところが
随所にありますね。

ただ、よくもまあ、こんな分かりにくいネタを、と言うところに気付いた時、オタク的にはほくそ笑んだり(笑)

投稿: はかせ | 2011年10月23日 (日) 16時31分

>オレの子供なのに、なぜこの面白さがわからん!

理不尽なとーちゃんですね(^o^;

投稿: 皇帝 | 2011年10月25日 (火) 23時43分

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