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2006年11月20日 (月)

「七百万ドルの災難」

さて、今回はまたまた趣を変えて、海外ミステリー小説の感想文でも書いてみよう。
J・P・ホーガンみたいに著作をいくつか読んだことのある作家のものだと、安心して買うこともできるのだが、古本屋さんの100円棚で、内容もわからずに面白そうな本を選ぶのは、結構難しい。

700million 本書「七百万ドルの災難」(ジェイムス・マグヌスン著)は、な~んも予備知識なしに、手にとって裏表紙に書いてある簡単なあらすじをたよりに買ってみた本である。
タイトルやそのあらすじだと、なにやら犯罪小説のようでもあり、コメディーのようでもあり、なんとなくエンターテイメントっぽい印象を受けたのだが、果たしてどんなものか。

読後感の悪さでは、近来稀に見る小説である。400ページ弱の結構な長編小説であるが、終始主人公自身に起因する軽率な行動によってもたらされる後ろめたさと不安感が濃密に漂い、実に深~い閉塞感で、何度読むをやめようかと思ったことか。それでも、徐々に追い詰められていく主人公が、どんな結末を迎えるのかが気になって気になって、ついつい最後まで読んでしまった。
読んでしまって「ありゃ~、これはないよなぁ~」とため息が出てしまった。なかなか読書という行為でこういう感慨を抱くことは少ない。そういう意味では貴重な体験であった。
まぁ、こんな感想を書いてしまったら、この拙文を読んで「じゃ、オレも読んでみよう」なんて誰も思わないだろうから、ストーリーも紹介しておこう。

ベン・リンドバーグは、若いころは新進の脚本家として注目を集めたこともあったのだが、今ではテキサスの地方大学で米文学の教鞭をとるしがない助教授であった。生活は決して裕福ではなく、妻と2人の子供を抱え、自動車の修理代すら満足に払えない状態であった。そんな彼がひょんなことで、飼料店の地下室に隠されていた700万ドルのはいったクーラーボックスを見つけてしまう。彼はその大金を自分の生活の向上に使おうと思い、要するにネコババしてしまう。元来小心者なので、ネコババするのに、またいろいろ悩み、策を弄するのであるが、このプロセスが、なかなかまどろっこしい。
そうこうするうちにダニエル・スイーニーなる学生に秘密を知られてしまい、奇妙な共犯関係?が成立する。また、大金を奪われた組織の影がベンの周りにちらつき始め、ベンは心理的にどんどん追い詰められていく。疑心暗鬼になったベンはスイーニーも信じられなくなり、袂を分かってしまう。
しかし、組織は実力行使に出て、まずスイーニーに暴行を加え、次にベンの娘を誘拐して、金のありかをベンに問いただす。彼の愚行を難詰する妻をおいて、娘を奪還にベンは向かう。普通なら、主人公の英雄的行為によって読者はカタルシスを得られる場面であるべきなのだが、当然ながら、正義はこちら側にないので、なんとも言いがたい気詰まりな気分を味あわせられることになる。
結局、事態は収拾するのであるが、な~んとも後味の悪い結末を迎える。

・・・拾ったものをネコババしたらダメですよ~という教訓小説なのかな、これは。
主人公が徐々に追い詰められていく過程を手に汗握り読み進めていくことが、この作品に対するあるべき態度なのだろうが、それにしても、あまりに結末が救われない。人生って、結局そんなふうにバッドエンドなんですよ、ハッピーエンドなんてありえない、と信念を持っている人には楽しめる小説だと思います。そういう人には、お勧めしておきますね。

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コメント

読み終えたあと「‥何が言いたいねん‥?」って感じ?
私も夜中に映画を見終えては「‥ほんでなんやん!」と一人呟く事があります(笑)
しかし、「四丁目の夕日」は後味の悪さも格別ながら暫くして「もう一度、読んでみようかなぁ‥」と思わせる不思議な印象が残りますね。
ほんでもって再度読んで「やっぱり読まなきゃよかった‥」と思っちゃうんですよね(笑)

投稿: ちきんま | 2006年11月21日 (火) 19時45分

う~ん。
「何が言いたいねん?」というより、400ページも話を引っ張っておいて、そういうカタルシスの得られない終わり方ってどうよ?って感じですね。多分、作者の言いたいことははっきりしてますよ。「拾ったものはネコババしたらあかん」ってことですよ(違うって)。
あ~、「四丁目の夕日」かぁ~。しばらく忘れていたのだけど、思い出してしまった。まさしく、ちきんまさんの指摘どおりに、読むたびに暗澹たる思いに浸れる稀有な作品ですね。
また感想文アップしようかな。

投稿: 皇帝 | 2006年11月22日 (水) 01時56分

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